抱きぐせという言葉は、死語になりつつあります。
私もときどき、若いお母さんが年配の方からそう言われる場面に遭遇します。産院では「泣くたびに抱っこしてください」とか、「抱きぐせはない」ともいわれるので混乱しますね。では、どうして赤ちゃんは泣くのでしょうか?
0~1カ月頃は、生きていくためです。おとなに世話をしてもらおうと泣いて知らせます。3カ月頃を過ぎると、それ以外にも甘えたい、かまってなどの理由で泣くようになり、抱っこで「心」が落ち着くようになります。
研究によって、人は抱っこされ、あやされ、ふれ合うことで、オキシトシン(別名:愛情ホルモン)が出ることがわかってきました。乳幼児期にたっぷりふれ合うことで、その後の発達が安定するとも言われています。「抱きぐせがつくから抱っこしない」という言葉はすたれ、死語になりつつあります。
とは言え、ひとりで四六時中抱っこしているとほかのことができません。もしかしたら人手がないときに、親が罪悪感を抱かないように「抱きぐせ」という言葉が生まれたのかもしれませんね。
親と離れて泣くことは、発達上必要な過程です。
8カ月頃というと、人見知りや場所見知りが明らかになってくる時期です。今まで泣かなかった人や場所でも泣くようになり、親を探し回る「後追い」も出てきます。
これは安心して自分をゆだねられる“安全基地”として親を認識している証拠。この時期は、ひとときも子どもと離れられず、ドアを開けたままでトイレに入ったり、せっかく児童館などに出かけても親にべったり、ということがよくありますが、これは発達上必要な過程です。成長にしたがって、分離不安(親と離れて泣くこと)が少なくなり、おとなと離れていても安全だ、という安心感が身について、自立していきます。
今は泣かれて、ずっと抱っこが続いて、しかもまわりからは抱きぐせと言われ……切ない毎日かと思います。でも、長い子育て人生のひととき、こんなに抱っこを求められるのは今だけです。できる範囲で抱っこしてあげてください。
どうしても家事をしなければいけないのに、泣き続ける……という場面になったら、泣いているのを無視するのではなく、「もうあと3枚、洗濯物を干したら抱っこに行くね」などと声をかけて、お母さん自身の気持ちを落ち着かせるのもよいかもしれません。